P10~11 福祉見てある記66 「不登校の子どもたちの学び舎 ~熊本学習支援センター~」 本研究所研究員 本吉菜つみ(臨床心理学) はじめに  令和4年度の国立・公立・私立の小・中学校の不登校児童生徒数が約29万9千件の過去最多となり1)、従来のように学校に出席して学ぶというスタイルだけでは、子どもたちの学びの機会を保障することが難しくなってきました。熊本市では、学校への登校が難しい児童生徒の学習支援として、オンライン学習支援がなされるなど、子どもたちの学びを継続的に支援していく仕組みについて様々な試行錯誤がされているところです2)。さて、不登校状態にある子どもたち(小学生・中学生・高校生)の学びの場の一つに、熊本市学習支援センター(以下、センター)があります。センターでは、通信制高校をはじめ、不登校の子どもたちへの学習サポートや余暇活動、クッキング、子ども食堂等様々な取り組みがなされています。今回は、学校以外で学ぶ子どもたちを支える場について理解を深めたいと思い、センターにお伺いし、中尾奏美さん(総務)にお話を聴いてきました。 質問1:コロナ禍を経て、オンライン授業の活用等の取り組みもなされ、学校に行って学ぶという学びの前提が変化してきたようにも感じています。現場での感触はいかがですか。  コロナ禍を経て、不登校に関する相談件数はセンターでも増加しています。ゴールデンウィーク明けや夏休み後に特に学校にいけないという相談が多いです。相談に来られる保護者やお子さんたちのほとんどは、“学校からあぶれてしまった”という思いを吐露されます。つまり、“学校がスタンダードである”というこれまでの感覚はあまり変わっていない印象です。高校は通信制を選択し、昼間の時間にアルバイトをしてそこで役割を得て充実感を持つ生徒もいます。今後、積極的選択として通信制を選ぶということがあってもいいのでは、そうなっていくといいなと感じます。 質問2:子どもたちの学びを支える上で、職員の方が大事にされていることはどのようなことですか。  センターに来た子どもたちに“今日は何をする?”と必ず問いかけ、子どもたちの選択を受け入れ、寄り添うことをスタッフ間で共有して心掛けています。センターの特色として、教員免許有資格者が多く、センターでの活動として“学ぶ”ことを根幹に置いています。しかし、子どもたちが“今日は遊びます”と言えば、その選択を受け入れてセンターで共に過ごします。すると子どもたちは、自然と勉強を始めることともしばしばです。また、県内の大学生80名ほどが、学生ボランティアとして登録しており、毎日数名の学生ボランティアが子どもたちの学習をサポートしています。子どもたちは大学生とのかかわりの中で、勉強を教えてもらうだけでなく、楽しそうに会話している様子をよく見ます。 質問3:通ってくる子どもたちの姿について、お教えいただけませんか。  低学年から不登校で小学4年生の終わり頃からセンターを利用しているお子さん(Aさん)がいます。Aさんは音の過敏などのため、はじめは、別室で職員との1対1の個別のかかわりが中心でした。しかし、行事の中で他の子どもたちや職員、学生ボランティアとかかわり、Aさんのユニークさが周りに伝わるにつれ、だんだんとみんなと同じ空間で過ごせるようになりました。Aさんは小学5年生の一年間で、小1~小5の算数の内容に取り組んだことが自信になり、他の教科に取り組み始めたり、ノートを取り始めるようになったりする姿がありました。教科学習以外でも、相手の気持ちを汲み取って話を聞くことができるようになったり、素直に“ありがとう”という感謝の気持ちを言葉で伝えられるようになったり、同年代の子どもたちと遊んだりする様子も見られてきました。 質問4:不登校のお子さんを育てる親御さんの思いについて、お教えいただけませんか。  ここにまず相談に来るのは親御さんの方で、いろいろ考えられることはすべてやってみたけど難しかったから来たという方もいらっしゃいます。親御さんの不安が大きくなるとそれが子どもにも伝わります。だから、ぜひ、相談に来て不安を吐き出してほしいと思います。不登校の理由は分からない場合も多いですが、子ども自身も分からずにいるため、お子さんは“親に分かってもらえない”-親御さんはいろいろ尽くしているのに“理由が分からない”という、(分かり合いたいのに)分かり合えない苦しさを双方に抱えている場合もあります。不登校の理由は子どもたちにも分からない場合がほとんどです。職員と相談をしていくうちに、“理由は分からないものだ”という前提を受け入れると、親御さんも楽になる場合も多いです。センターでは定期的に保護者会も開催しています。はじめは「お話が苦手です」と言われる親御さんも、気がついたらたくさんお話しして下さっています。迷っている親御さんには、気軽に参加してほしいです。 尚、本文中のAさんについては、保護者の方の了承を得て記載を行っています。 通信制を利用する生徒。単位習得に向け、教科ごとの提出課題を確認中です。 子どもたちのリラックススペースです。疲れたら畳の上で寝転がる子どもたちもいるそうです。 子どもたちそれぞれのペースで学習を進める 姿がありました。 取材を終えて…本学からも徒歩圏内であり、学生ボランティアとして子どもたちの学びを支えるお手伝いをしている学生もいます。センターを利用し、同年齢の子どもたちや職員や学生ボランティアと一緒に活動する中で、子どもたちは教科学習という枠組みを超えて、社会で必要な力を自然と身に着け、学んでいることが分かりました。 1)令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要  https://www.mext.go.jp/content/20231004-mxt_jidou01-100002753_2.pdf 2)フレンドリーオンライン  https://www.city.kumamoto.jp/hpkiji/pub/detail.  aspx?c_id=5&id=41306(2023年11月28日閲覧)